綾辻行人『Another』を読んだ。
昔アニメを先に見ていたらしく、読み始めた時点でなんとなく知っている感覚はあった。
ただ、細かいところまでは覚えていなかった。
そして改めて内容を思い返してみると、この作品で自分が一番面白かったのは、
正体の分からないものが、少しずつ輪郭を持っていく過程
だったように思う。
読んでいる最中に、
「怖い!」
と思っていた記憶はあまりない。
それより、
「なんだこの世界。なんか気味悪いな」
という感覚のほうが強かった。
そしてすべてを知ったあとに、
「いや、この現象も怖いけど、人間側が作った社会もかなり怖いな……」
と思った。
最初に怖いのは、怪異ではなくクラスのルール
主人公は外からやってくる。
そこで3年3組に存在する、妙なルールに触れる。
周囲の人間は何かを知っている。
でも主人公には詳しく説明されない。
そして、ある人物をまるで存在しないかのように扱う。
初めて見る側からすれば、かなり異様だ。
なぜそんなことをしているのか。
なぜ全員がそれに従っているのか。
なぜ誰もちゃんと説明しないのか。
怪異の正体がまだ分からない序盤では、自分にはこの閉鎖性のほうが不気味だった。
まるで、よそ者が小さな村に入ったら、
「ここでは昔からこうだから」
と意味の分からない掟を押し付けられるような感じだ。
主人公が外から来た人間だからこそ、不気味に見える
もし主人公も最初からその環境で育っていたら、また見え方は違ったと思う。
でも彼は外から来る。
だから、
「それ、本当に必要なの?」
という視点を持てる。
中にいる人間にとっては常識でも、外から見ると異常に見える。
このギャップが面白かった。
閉ざされた環境では、長年続いているものほど、
「そういうものだから」
で受け入れられてしまうことがある。
理由より先に、ルールだけが残る。
『Another』の序盤には、そんな村社会的な気味悪さを感じた。
ただし、本当に効果があるならやるべきだとも思う
ここは難しい。
誰か一人を「いないもの」として扱う。
普通に考えればかなり残酷だ。
でも、それによって本当に人が死ぬのを防げるなら、自分はやらないよりやったほうがいいと思う。
倫理的に気持ちよくないからといって、命を守れる方法まで捨てる必要はない。
問題は、
それが本当に効果があるのか分からないこと
だと思う。
人間側は現象を完全に理解していない。
過去の経験から、
「こうすると大丈夫かもしれない」
という方法を積み重ねているだけ。
だから間違った対策も生まれる。
そして後から意味がなかったと分かると、
ただ一人を集団で排除していただけ
に見えてしまう。
その瞬間、一気に気持ち悪くなる。
恐怖の対象が途中で変わっていく
自分にとって『Another』は、恐怖の対象が途中で変化する作品だった。
最初は、
3年3組という閉鎖された社会が不気味。
でも話が進むにつれて、
本当に説明不能な現象が存在している
と分かってくる。
すると今度は、
「このクラスの人たちはおかしい」
ではなく、
「こんなことをしなければならないほど、現象のほうがおかしい」
に変わる。
人間側が異常なのだと思っていたら、その異常な社会を作らせた原因が本当に存在していた。
ここで恐怖の向きが変わる。
なぜか人が死んでいく
現場にいたら相当怖いと思う。
理由が分からない。
誰が次に死ぬのか分からない。
どうすれば防げるのかも分からない。
それなのに人が死んでいく。
直接幽霊が襲ってくるような怖さではない。
何か巨大な仕組みの中に入れられて、
ルールを知らないまま死の可能性だけを与えられている
ような怖さがある。
だから読んでいる時の感覚としては、
「怖い」
より、
「不気味」
のほうが近かった。
一番恐ろしいのは、記憶まで書き換えられること
現象そのものの中で、自分が特に怖いと思ったのが、
記憶への干渉
だった。
死者が混ざる。
それだけならまだ分かる。
でも『Another』の現象は、それだけではない。
周囲の人間が、
最初からその人物がそこにいたかのように認識してしまう。
記憶の辻褄まで合ってしまう。
これはかなり怖い。
本人からすれば、
「自分は確かにこう覚えている」
と思っている。
でも、その記憶自体が現象によって作り替えられている可能性がある。
強制的な上書き
自分には、これが一番恐ろしかった。
単純に忘れるのとは違う。
時間が経って自然に記憶が薄れるのでもない。
外部の何かによって、認知を強制的に上書きされる。
しかも本人には、それが上書きされたものだと分からない。
記憶というのは、自分が現実を判断するための基礎だと思う。
「これは昔起きた」
「この人と会った」
「自分はこういう経験をした」
そういうものを積み重ねて、自分の人生を理解する。
そこを書き換えられたら、
何を根拠に現実を判断すればいいのか分からなくなる。
偽物の記憶より、本当にあったことを失うほうが怖い
自分の場合、
「偽物の記憶を本物だと思い込む」
こと以上に、
本当にあった出来事を忘れさせられること
のほうが怖い。
確かに存在した人。
確かに一緒に過ごした時間。
確かに自分が感じたこと。
それが自分の意思とは関係なく消える。
しかも、消された本人は、
「自分は何かを失った」
と気づくことすらできないかもしれない。
これはかなり恐ろしい。
記録が残っていても、記憶は戻らない
一部には記録が残る。
それを見れば、
「確かにこの人はいたらしい」
と知ることはできるかもしれない。
でも、それは記憶を取り戻すこととは違う。
写真を見ても、
文章を読んでも、
自分がその人と過ごした感覚そのものは戻らない。
現象のルールまで理解していれば、
「この記録の人を自分は知っていたらしい。でももう思い出せない」
と分かってしまう可能性もある。
それはそれでかなり寂しい。
最後にすべての辻褄が合う
終盤で死者の正体が明らかになる。
主人公にとって非常に近しい人物だった。
そこまで来ると、
それまで引っかかっていたものがつながっていく。
なぜか以前この街に来たような気がする。
でも、その記憶をうまく掴めない。
そんな違和感まで、
現象によって認知が変えられていた
と考えることで辻褄が合う。
この瞬間はかなり面白かった。
単なる、
「犯人はこの人でした」
という謎解きではない。
それまでの主人公自身の認識まで含めて、
世界の見え方が組み替えられる。
そして、最後の判断はかなり重い
死者を死に還すことで現象を止める。
理屈だけなら分かる。
相手は本来すでに亡くなっている。
でも、目の前にいるのは普通に会話してきた人間だ。
主人公にとって大切な人物でもある。
そこに手を下す。
感覚としては、どう考えても人を殺す行為に近いと思う。
でも同時に、
それをしなければ、さらに人が死ぬ。
しかも相手は、現象によって一時的に現実へ混ざっている存在でもある。
簡単に正解を出せる状況ではない。
相当苦しい判断だったと思う。
『Another』というタイトル
タイトルの『Another』についても少し考えた。
単純には、
「もう一人」
という意味に見える。
本来そこにいる人数とは別に、
いつの間にか混ざっているもう一人。
本人も周囲も気づかない。
でも、それが本当に元の人物と同じなのかというと、少し不思議でもある。
死んだあとに戻ってくる。
記憶も辻褄が合う。
まるで本人のように存在する。
でも、本来そこにいるはずの人ではない。
そう考えると、
本人でありながら、もう一人の別の存在
という意味にも見える。
主人公が最後に非常に近しい死者と向き合うことまで含めると、このタイトルはかなり不気味だ。
怪異だけではなく、人間の対策まで怖い
読み終わって一番残ったのは、
恐ろしい世界だった
という感覚だった。
ただ、その恐ろしさは怪異だけではない。
怪異がある。
人間は怖がる。
何とか対策しようとする。
でも正体が分からない。
だから経験則でルールを作る。
そのルールを集団で守らせる。
外れた人間には圧力をかける。
こうして、
怪異への恐怖から、人間側にも閉鎖された社会が生まれる。
ここが面白かった。
怪異が人を殺す。
そして怪異を恐れた人間が、自分たちでさらに息苦しい環境を作る。
二重に怖い。
読んでいる時より、読み終わってから怖くなった
自分は読んでいる最中、
「ホラーだ、怖い」
とはあまり思わなかった。
それより、
「何が起きてるんだ?」
という興味のほうが強かった。
奇妙なルール。
死んでいく人。
曖昧な記憶。
隠されている情報。
それらの意味が少しずつ分かっていくのが楽しかった。
そして全部分かったあとで、
「いや、これ現場にいたら相当怖いな……」
となった。
さらに、
「この村社会みたいな対策もかなり気持ち悪いな……」
となった。
だから自分にとっては、
読む最中に怖がる作品というより、理解したあとに怖さが残る作品
だった。
まとめ
『Another』で一番面白かったのは、
正体の分からなかったものが、少しずつ明らかになっていく過程
だった。
最初に不気味なのは3年3組。
なぜこんなルールがあるのか。
なぜ全員が従うのか。
なぜ主人公だけ何も知らないのか。
そこから少しずつ、
本当に怪異が存在する
と分かってくる。
すると恐怖の対象が、
閉鎖された人間社会から、
その社会を作らせた現象そのものへ移っていく。
そして最後には、
記憶まで強制的に上書きする
という現象の恐ろしさまで見えてくる。
自分にとって『Another』は、直接的に怖がらせるホラーというより、
「何かがおかしい」という不気味さを追いかけて、その正体を知ったあとに怖くなる物語
だった。
怪異も怖い。
でも、
怪異を恐れる人間が作った閉鎖社会も怖い。
その両方が存在するからこそ、この世界は気味が悪い。
ホラーそのものが好きな人だけでなく、
正体不明の現象、奇妙なルール、閉鎖された集団、そして謎が徐々に解けていく物語
が好きな人にも向いている作品だと思う。



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