葉巻を始めてみたいという人に、おすすめを聞かれることがある。
しかし私は、いきなり銘柄だけを勧めることには少し抵抗がある。
葉巻は高い。
時間がかかる。
煙や匂いが残る。
吸える場所も限られている。
プレミアムシガーであれば湿度管理も必要になる。
そして何より、健康上のリスクを伴う。
一本買って火をつければ終わる、気軽な趣味ではない。
それでも私は葉巻を吸っている。
葉巻には、美味しい料理を食べたときのように、自然と笑顔になれる瞬間があるからだ。
一本の中で味が変化し、30分から2時間ほど、その味わいと向き合える。
私にとって葉巻は、カロリーゼロの味覚体験装置であり、忙しい日常の中で安らぐ時間を作る装置でもある。
栄養はない。
健康にも良くない。
それでも、心の栄養になることはある。
この記事では、葉巻を始める前に知っておいてほしい負担と、初心者が無理なく試しやすい価格帯、そして私がそれでも葉巻を吸う理由について書いていく。
葉巻は、想像以上に敷居が高い
葉巻には、味や価格以前に知っておくべきことがある。
まず、健康リスクを伴う嗜好品であること。
紙巻きたばこのように肺へ深く吸い込まないとしても、煙草であることに変わりはない。
さらに、現在の日本では煙草そのものに厳しい目が向けられやすい。
本人が周囲へ配慮していたとしても、煙や匂いを嫌う人は多い。吸える場所も限られており、場合によっては「社会の敵」のような扱いを受けることさえある。
服や髪、持ち物にも匂いは残る。
自分が好きだからといって、周囲も受け入れてくれるとは限らない。
一本吸うだけでも、かなり時間がかかる
葉巻は短いものでも20分から40分ほど、大きいものでは1時間以上かかる。
ロブストやトロ、チャーチルといったサイズになれば、1時間から2時間近く吸うこともある。

忙しい現代では、この時間を確保すること自体が難しい。
葉巻を吸うために仕事や家事を急いだ結果、葉巻以外の時間が余計に忙しくなってしまえば、本当に自由な時間が増えたとは言えない。
葉巻が作ってくれるのは、時間そのものではない。
すでにある時間を、安らぎの時間へ変えることなのだと思う。
湿度管理と事前出費も必要になる
プレミアムシガーは、乾燥したまま放置すると味や燃焼に影響が出る。
「湿度管理」と聞くと難しそうだが、実際には密閉できる容器へ調湿材を入れ、基本的には放置しておくだけでも管理できる。
ただし、初心者にとっては、その一手間自体が大きな参入障壁になる。
さらに、葉巻は買ってすぐ吸えば必ず美味しいとは限らない。
輸送直後や保管状態によっては、しばらく休ませた方が美味しくなることもある。
つまり、今日吸う一本だけではなく、今後吸う葉巻を前もって買っておく必要がある。
価格を抑えるために箱やバンドルで買うようになれば、一度の出費は自然と大きくなる。
葉巻は一本の値段だけでなく、在庫を持つための先行投資が必要な趣味でもある。
一本の値段より、月に何本吸うかが重要
葉巻が高いかどうかは、一本の値段だけでは決まらない。
大切なのは、
月に使える予算 ÷ 月に吸う本数
である。
たとえば、葉巻に月2万円使えるとする。
月8本なら、一本2,500円まで使える。
月10本なら、一本2,000円。
月20本なら、一本1,000円。
月40本なら、一本500円になる。
休日に一本だけ吸う人であれば、一本2,000円の葉巻でも月2万円ほどで済む。
しかし、私のように平日は一本、休日には三本吸うとなれば、週に約11本。月にすれば、およそ50本になる。
一本1,000円でも月5万円。
一本500円でも月2万5,000円だ。
一般的な会社員が、毎月の自由に使えるお金をすべて葉巻へ使えるわけではない。
だから、たくさん吸いたい人にとっては、一本500円前後が現実的な価格帯になってくる。
国内の葉巻価格が高いということは、単に月に数本吸う人へ向いているだけではない。
月に数本しか吸わない人しか続けにくい市場を作っているとも考えられる。
初心者だから高級葉巻、には少し違和感がある
初めて葉巻を吸う人には、キューバ葉巻やダビドフのような高級葉巻が勧められることがある。
もちろん、予算に余裕があり、記念として失敗しにくい一本を求めているのであれば、それも良いと思う。
しかし、葉巻を継続できるか確かめたい人にまで、高級葉巻だけを勧める必要はない。
おすすめの飲食店を聞かれたとき、本来なら予算や人数、好み、目的を確認するはずだ。
一杯900円のラーメンがまずいわけではない。
400円の立ち食いそばが、食事として劣っているわけでもない。
寿司は5,000円のランチ以上でなければ美味しくないのか。
フレンチは3万円のコースでなければ価値がないのか。
葉巻も同じだと思う。
高い葉巻には、高い葉巻なりの魅力がある。
しかし、価格が安いからといって、美味しくないとは限らない。
大切なのは、この価格で、どの程度の味と時間を楽しめるのかを伝えることだ。
最初の入口はドライシガーでいい
初心者が葉巻というものを試すなら、最初はドライシガーが手頃だと思う。
ドライシガーは、小型で機械巻きの商品が多い。
葉巻自体の重量が軽く、手巻きのプレミアムシガーより製造コストも抑えられている。
一本300円以下の商品も多く、基本的には難しい湿度管理をせず、そのまま吸える。
甘い香りが好きならトスカネロ実際に吸った感想は、
「トスカネロ・アロマ・カフェのレビュー」で詳しく書いています。
ドライシガーだけでも、葉巻の煙や味わう時間が自分に合うかは確認できる。
着香されていないドライシガーは、少し加湿した方が美味しく感じることもある。
ただし、最初から管理を求める必要はない。
買ってそのまま吸い、気に入った後で「もっと美味しく吸いたい」と思ったときに覚えればいい。
次に試すなら、500円から1,000円前後
ドライシガーが合いそうなら、次は手巻きのプレミアムシガーを試したい。
私が確認した価格では、候補になるのはこのあたりだ。
- チンチャレロ・トルペディドス:480円前後
- タバカレラ・コロナ:500円前後
- アロマデニカ384:600円前後
- クオラム・ロブスト:800円前後
- アロマデニカ504:1,000円前後
特にアロマデニカ384は、ドライシガーから一段進んだプレミアムシガーとして分かりやすい。
価格は比較的安く、サイズもドライシガーより大きい。そして、独特のクリーミーな味わいがある。
太い葉巻の方が吸いやすく、多少雑に吸っても味が崩れにくいこともある。
予算が許すなら、アロマデニカ504のような太めの葉巻から試してもいい。
ここまで吸えば、自分が葉巻の味を楽しいと思えるか、ある程度は判断できるはずだ。
その先は、味、サイズ、ブランド、喫煙時間と、自分の予算との付き合いになる。
それでも私が葉巻を吸う理由
ここまで書くと、葉巻は恐ろしく敷居の高い趣味に見える。
実際、その通りだと思う。
高い。
時間がかかる。
煙と匂いが残る。
場所を選ぶ。
管理が必要になる。
健康にも良くない。
それでも私が吸う一番の理由は、味わいによる多幸感である。
美味しい料理を食べたとき、人は自然と笑顔になる。
「うまいな」と感じた瞬間だけ、仕事やお金、将来への不安が少し遠くなる。
葉巻にも、その瞬間がある。
クリーム、ナッツ、カカオ、コーヒー、木、胡椒。
一本の中で少しずつ味が変わり、その変化へ集中している間は、ほかのことを考えなくていい。
アルコールのように酔いが残ることもない。
匂いは残るが、翌日の判断力まで奪うこともない。
食べ物のようにカロリーを摂取することなく、長い時間、味覚による満足を得られる。
栄養はない。
それでも、心の栄養にはなる。
葉巻に向いている人
葉巻に向いているのは、その時間へ集中できる人だと思う。
味覚が特別に優れている必要はない。
「さっきより少し甘い」
「苦味が増えた」
「この飲み物と合う」
そうした小さな違いを探すこと自体を楽しめればいい。
料理やワインが好きな人とも相性が良いと思う。
一本ごとの個体差を受け入れ、飲み物や食べ物との組み合わせを考え、その時間全体を楽しめる人。
周囲へ配慮しながらも、社会的な目だけを理由に自分の好みを捨てない人。
煙が極端に苦手ではなく、時間と場所を確保できる人。
そして、生活を壊さない範囲で自由に使えるお金がある人。
葉巻は、舌に合うかだけではない。
その人の人生の速度に合うかどうかが大きい。
葉巻は、万人へ勧められる趣味ではない
葉巻は、誰にでも気軽に勧められる趣味ではない。
健康、時間、場所、匂い、管理、費用。
始める前に考えることが多すぎる。
しかし、条件が合う人にとっては、ほかでは代替しにくい幸福を与えてくれる。
初めから高級葉巻を買う必要はない。
まずは安いドライシガーから試してもいい。
次に500円から1,000円程度のプレミアムシガーを吸い、自分が葉巻をどれほど楽しめるのか、どのくらいの頻度で吸いたくなるのかを確認すればいい。
吸わなければ、本当のところは分からない。
しかし、何も知らずに高い葉巻を買う必要もない。
自分の生活と予算に合う一本から始めてほしい。
それが250円のトスカネロでも、600円のアロマデニカ384でも構わない。
葉巻の価値は、値段だけで決まるものではない。
火をつけて、その時間を美味しいと思えたなら、そこがその人にとっての入口である。


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