倉知淳『星降り山荘の殺人』感想|トリックより、犯人の気持ち悪さが残ってしまった

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倉知淳『星降り山荘の殺人』を読んだ。

正直に言うと、細かいトリックについてはかなり忘れている。

どういう順序で事件が起きたのか。

どの証拠が何につながったのか。

種明かしの細部も、今となってはかなり曖昧だ。

それでも妙に残っているものがある。

犯人が、本当に嫌だった。

トリックそのものより、

「なんだこいつ……」

という嫌悪感のほうが強く記憶に残っている。

だから自分にとって『星降り山荘の殺人』は、少し変わった読後感の作品だった。

トリックが主役の作品だとは思う

作品として一番大きな見どころは、おそらくトリックなのだと思う。

登場人物がいて、

怪しい状況があって、

読者が推理し、

最後に種が明かされる。

ミステリーとして、かなり仕掛けを意識して作られている作品だった印象がある。

ただ、自分自身はトリックを細かく分析して楽しむタイプではない。

真相を聞いても、

「ああ、そういうことだったのか」

くらいで終わることが多い。

この作品もそんな感じだった。

驚かなかったわけではない。

でも何年も経ったあとまで、

「このトリックがすごかった!」

と残るほどではなかった。

その代わり、犯人だけは妙に残った。

最初は、何かに夢中な人だと思っていた

犯人について、最初から

「こいつ犯人だろ」

と思っていたわけではなかった。

むしろ、

何かに強く夢中になっている人

くらいに見ていた。

その「何か」が何なのかは、読んでいる時にはよく分からなかった。

自分の夢を語る。

自分の将来を大切にしている。

何かを成し遂げたいと思っている。

そこだけを見れば、別に悪いことではない。

むしろ夢中になれるものがあるのは、普通なら良いことだと思う。

でも真相を知ってから、その印象がかなり変わった。

自分の夢は大切。でも他人の人生はどうでもいい

自分が一番嫌だったのは、ここだった。

犯人は自分の夢や未来をものすごく大切にしているように見える。

でも追い詰められると、

自分を守るためなら他人の人生を犠牲にできる。

しかも単に嘘をつくだけではない。

工作までして、

自分に近い人間へ責任を押し付けようとする。

自分には、これが本当に気持ち悪かった。

夢を持つこと自体は悪くない。

自分の未来を守りたいと思うことも普通だ。

でも、

自分の未来を守るために、他人の未来を潰してもいい

となった瞬間に、まったく共感できなくなる。

誠実なら罪が消えるわけではない

もちろん、

「正直に認めればいい」

という単純な話でもない。

罪を犯したなら、正直に話したところで罪そのものは消えない。

被害もなくならない。

だから、

「最後に反省したから良い人」

とは自分も思わない。

ただ、

「自分がやったことは自分で引き受ける」

という最低限の誠実さはあると思う。

でもこの犯人の場合、自分が覚えている限りでは、犯行の設計そのものが、

自分を守り、他人へ責任を移すため

に作られていたように見えた。

だから最後だけ急に反省したとしても、あまり印象は変わらなかったと思う。

トリックそのものが自己保身に見えてしまう

ミステリーでは、犯人のトリックを見ると、

「よくそんなこと考えたな」

と感心することがある。

でもこの作品では、その知恵が全部、

自分だけ逃げるため

に使われているように感じた。

しかも、そのために他人を犯人に仕立て上げようとする。

そうなると、自分にはトリックの巧妙さより、

「その頭を全部そこに使うのか……」

という嫌悪感が先に来てしまった。

作品としてはトリックが主役なのだと思う。

でも自分に残ったのは、その仕掛けを作った人間の気持ち悪さだった。

事情があっても、あまり同情できなかった

犯人側にも事情はある。

そこに至るまでの過去や理由もある。

普通なら、

「そこまで追い詰められていたなら……」

と少しくらい同情することもあると思う。

でも自分は、ほとんど同情できなかった。

事情があることと、

他人へ責任を押し付けること

は別だからだ。

自分の中では、

「かわいそうな事情を抱えた犯人」

というより、

「かなり自己中心的な人間」

という印象のほうが強く残った。

夢が人を壊したのか。

元々そういう人間だったのか。

そこまでは分からない。

でも少なくとも、自己中心的だったという印象はかなり強い。

犯人そのものが苦手だった

だから読後感もあまり良くなかった。

事件が解決した。

真相も分かった。

普通なら、

「なるほど、スッキリした」

となるところなのかもしれない。

でも自分はあまりスッキリしなかった。

トリックに納得できなかったからではない。

犯人という人間そのものが嫌だったから

だと思う。

自分はこういうタイプの人間がかなり苦手だ。

自分の利益を最優先する。

自分には夢があると言う。

でも、そのためなら他人の人生を犠牲にする。

追い詰められたら責任を押し付ける。

そういう人間を見ると、生理的に嫌悪してしまう。

『星降り山荘の殺人』では、その感覚がかなり残った。

ミステリーを考える人間も、ちょっと怪しい

もう一つ印象に残っているのが、ミステリーに詳しい人物だった。

これは事件の犯人として怪しいという意味ではない。

もっと別の意味で、

「そもそもミステリーを専門的に考える人って、ちょっと変じゃない?」

と思った。

人間が何を不思議だと感じるのか。

どこで驚くのか。

何を当然だと思い込むのか。

どんな情報を出せば、別の方向へ考えるのか。

それを言葉で延々と追究する。

普通の人よりかなり特殊なことを考えている。

だから作品の中にそういう人がいるだけで、

「こいつ何か仕掛けてる側じゃないの?」

と思ってしまう。

もしそれもミスリードとして意図されているなら面白い。

最後には本当の「先生」みたいに見えた

そんな怪しいミステリー側の人物も、終盤では別の役割になる。

真相が整理され、

事件がどういう構造だったのか説明される。

その時は、

本当に先生みたいだな

と思った。

読者が曖昧にしか理解できていなかったものを、

「これはこういうことでした」

と整理してくれる。

最初は怪しく見える。

最後は解説してくれる。

この役割の変化も少し面白かった。

目立たなかった人物が終盤で働く

さらに、序盤ではそれほど目立っていないように感じた人物が、終盤ではかなり頑張っていた記憶がある。

読んでいる途中では、

「脇の登場人物の一人」

くらいに思っていた。

でも最後になると、真相を整理する側へ回る。

こういう、

目立たなかった人物が最後にちゃんと仕事をする

展開は少し気持ちいい。

犯人への嫌悪感で読後感自体は悪かったけれど、事件を解く側については、最後にちゃんと役割を果たしてくれた印象がある。

夢を持つことと、人間性は別

この作品を振り返って少し考えたのは、

夢を持っていることと、その人が立派であることはまったく別

ということだった。

何かに夢中になる。

目標を持つ。

努力する。

それ自体は良いことだと思う。

でも、それだけで人間性まで評価できるわけではない。

夢のために他人を踏みつける人もいる。

自分の成功だけを特別扱いする人もいる。

そうなると、

「夢を追う人」

という響きだけで美しく見てはいけないのだと思う。

重要なのは、

その夢のために何をするのか

なのだろう。

犯人の「夢」が余計に嫌だった

だから犯人が夢を語っていること自体が、後から考えると少し嫌だった。

夢を持っているから特別なのではない。

他の人間にも人生がある。

他の人間にも大切なものがある。

当然、マネージャーにも人生がある。

それを犠牲にしてでも、

「自分には夢があるから助からなければならない」

となるなら、その夢は他人を踏みつける理由になってしまう。

自分にはそこがどうしても受け入れられなかった。

解決しても、後味が悪い

ミステリーの場合、犯人が分かることでスッキリする作品も多い。

謎が解ける。

全体がつながる。

そこに気持ちよさがある。

でもこの作品では、

謎が解けたあとに嫌な人間だけがくっきり見えた

ような感覚があった。

だから後味が悪かった。

それは作品の欠点というより、

自分がこういう人間をかなり嫌うからなのだと思う。

別の人なら、

「犯人の執念が面白い」

「トリックがすごい」

と感じるかもしれない。

自分には、

「いや、この人ほんと無理だわ……」

が一番残った。

トリック好きには向いていると思う

おすすめするなら、やはりトリックを楽しむ人だと思う。

誰が犯人なのか。

どうやったのか。

何を隠していたのか。

どこで読者が誘導されていたのか。

そういうものを考えながら読む人には、かなり楽しめる作品なのだと思う。

自分はそこへの関心がそこまで強くない。

だから種明かしについては、

「なるほど、そういうことだったのか」

で終わった。

そして結果的に、犯人への嫌悪感だけがかなり強く残った。

まとめ

『星降り山荘の殺人』で一番大きな見どころは、おそらくトリックだと思う。

でも自分に一番残ったものは違った。

犯人の気持ち悪さだった。

自分の夢を大切にする。

自分の未来を守ろうとする。

それ自体はいい。

でもそのために、

嘘をつく。

工作する。

他人へ責任を押し付ける。

他人の人生を犠牲にする。

そこまで行くと、自分にはまったく共感できない。

事情があっても同情できなかった。

トリックも、

「よくできている」

より先に、

「これ全部、自分だけ助かるために考えたのか」

と思ってしまった。

だから事件が解決しても、あまりスッキリしない。

犯人の存在そのものが嫌で、後味の悪さが残った。

トリックを楽しむ読者なら、自分とはかなり違う感想になると思う。

でも自分にとって『星降り山荘の殺人』は、

トリックが主役のミステリーなのに、最後には犯人への生理的な嫌悪感のほうが強く残った作品

だった。


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